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◇ ◇ ◇
「おーい、何してんだよ」
昔の事を思い出しながらゴミ箱の前で立ち尽くしている所に、好都合な奴がやって来た。
同学年で、寮ではメームメイトの山岸だ。
「宝探しか?」
軽い口調で近付いてきて、こちらを覗き込む。
宝探しをしているとは本気で思っていないだろうけど、この状況では言葉を返す気も失せるようなセンスだ。
「落し物か?」
オレが手に持つポストカードに書かれた言葉を読む時間は、一瞬で十分だ。
「何だか意味深だな、オイ」
カードの中央には、実にシンプルな告白の言葉がただ一言だけ書かれている。
予想していたよりも、ずっとずっと穏やかで深い言葉。
これは、あふれた想いの一片。
丸めて捨ててしまうなんて哀しすぎる。
「頼みたいことがある」
綴られた言葉を噛み締めながら、横にいる好都合な奴に話しかけた。
「いーよ。何でもどーぞ」
期待を裏切らない軽い返事が心地好い。
「会長に、告白してくれないか?」
「・・・俺が?」
「好きだろ? 荻野先輩」
怪訝な表情を浮かべながらも、そいつは否定をしなかった。
「それがラブレター?」
ヨレヨレになったポストカードを指して、察しの良い事を訊く。
薄く笑って誤魔化して、再びカードに目を落とす。
力いっぱいに丸められた不憫なポストカード。
あの人も、さすがに自分の想いは千切ることができなかったのか。
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