08 (田辺)

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◇ ◇ ◇   「おーい、何してんだよ」  昔の事を思い出しながらゴミ箱の前で立ち尽くしている所に、好都合な奴がやって来た。  同学年で、寮ではメームメイトの山岸だ。 「宝探しか?」  軽い口調で近付いてきて、こちらを覗き込む。  宝探しをしているとは本気で思っていないだろうけど、この状況では言葉を返す気も失せるようなセンスだ。 「落し物か?」  オレが手に持つポストカードに書かれた言葉を読む時間は、一瞬で十分だ。 「何だか意味深だな、オイ」  カードの中央には、実にシンプルな告白の言葉がただ一言だけ書かれている。  予想していたよりも、ずっとずっと穏やかで深い言葉。  これは、あふれた想いの一片(ひとひら)。  丸めて捨ててしまうなんて哀しすぎる。 「頼みたいことがある」  綴られた言葉を噛み締めながら、横にいる好都合な奴に話しかけた。 「いーよ。何でもどーぞ」  期待を裏切らない軽い返事が心地好い。 「会長に、告白してくれないか?」 「・・・俺が?」 「好きだろ? 荻野先輩」  怪訝な表情を浮かべながらも、そいつは否定をしなかった。 「それがラブレター?」  ヨレヨレになったポストカードを指して、察しの良い事を訊く。  薄く笑って誤魔化して、再びカードに目を落とす。  力いっぱいに丸められた不憫なポストカード。  あの人も、さすがに自分の想いは千切ることができなかったのか。
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