246人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「あのさ」
きっと頭の中は疑問だらけの山岸が口を開く。
「何でそんな事すんの?」
実に尤もな疑問だ。
何の為とか、誰の為とか、そんな事は無かった。
ただ、哀しいと思ったから。
あの蔵原先輩が、自分の気持ちに向き合って、不器用だけどようやく形にしたものだ。
このままゴミとして捨てられてしまうような、風に飛ばされてしまいそうな想いでも、知ってしまったのだから見過ごせない。
「好きだから」
「誰を?」
少し慌てたような山岸が、すぐに訊き返してきた。
そんなに突っ込まれるとは思わなかった。
「みんな」
先輩後輩と言えど、これだけ長い間つるんでいたら、嫌でも情が移ってしまう。
純粋に、幸せになって欲しいと思っている。
大きな意味で家族みたいな括りだろうか。
これからオレがしようとしている事が、幸せに結びつく保障はないけれど。
「それって、俺も入ってんの?」
全く納得できていない山岸が、少し強い口調で訊いてくる。
どうしてそんなに必死なのか、ちょっと理解に苦しむ。
「みんなと一緒でいいのかよ」
意地悪く訊くと、山岸はそれでようやく気づいたらしく「あ」と小さく短く呟いて納得した ようだった。
これはきっと、捨てられてしまった言葉を見つけた自分の役割なのだ。
本人たちの知らない所で賽を振ってしまうのは、少し気が引けるけれど。
最初のコメントを投稿しよう!