08 (田辺)

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  「あのさ」  きっと頭の中は疑問だらけの山岸が口を開く。 「何でそんな事すんの?」  実に尤もな疑問だ。  何の為とか、誰の為とか、そんな事は無かった。  ただ、哀しいと思ったから。  あの蔵原先輩が、自分の気持ちに向き合って、不器用だけどようやく形にしたものだ。  このままゴミとして捨てられてしまうような、風に飛ばされてしまいそうな想いでも、知ってしまったのだから見過ごせない。 「好きだから」 「誰を?」  少し慌てたような山岸が、すぐに訊き返してきた。  そんなに突っ込まれるとは思わなかった。 「みんな」  先輩後輩と言えど、これだけ長い間つるんでいたら、嫌でも情が移ってしまう。  純粋に、幸せになって欲しいと思っている。  大きな意味で家族みたいな括りだろうか。  これからオレがしようとしている事が、幸せに結びつく保障はないけれど。 「それって、俺も入ってんの?」  全く納得できていない山岸が、少し強い口調で訊いてくる。  どうしてそんなに必死なのか、ちょっと理解に苦しむ。 「みんなと一緒でいいのかよ」  意地悪く訊くと、山岸はそれでようやく気づいたらしく「あ」と小さく短く呟いて納得した ようだった。  これはきっと、捨てられてしまった言葉を見つけた自分の役割なのだ。  本人たちの知らない所で賽を振ってしまうのは、少し気が引けるけれど。
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