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「じゃあ、全部断っちゃったんですか?」
そう言う矢野は少し残念そうだ。
一体何を期待していたのだろうか。
「当たり前だろ。何で好きでもない男と付き合わなきゃならないんだよ」
「そうですけど」
矢野にまた何か言われる前に、生徒会室の奥のいつもの席へと向かうことにした。
今までずっと部屋の入り口で話し込んでいたので、少し疲れた。
「和海、そこ気をつけろよ」
歩き出したオレへ、部屋の奥から武威が注意を促した。
「え?」
「ダンボールが・・・・・・あ」
「うわっ!」
武威が「気をつけろ」なんて言うから、そっちに気を取られた途端に何かに蹴躓いてしまった。
いつもは何もない所に、今日に限って何故かダンボールが。
中に何が入っているのか知らないけど、オレが蹴ったくらいじゃビクともしないくらい重い。
と言うことは、弾かれたのはオレの方で、見事に前のめりにバランスを崩してしまった。
咄嗟に手を付いたので床と衝突と言う事態からは免れたが、当たった足が痛い。
「大丈夫ですか?」
「なんとか・・・」
涼しい声だったのが気になるが、心配してくれた田辺へと若干乾き気味の笑顔を見せた。
「和海が無事でも、鞄が重体だぞ」
ガタッと椅子から立ち上がった武威が、やれやれと言うようにこちらへやってきた。
言われて見れば、手に持っていた筈の通学鞄が無い。
どこだろう、と探すまでもなく、目の前に落ちていた。
しかも、無残にも中身が雪崩れ出ている。
「お前、また鞄を開けっぱなしだったろ」
説教というほどキツイ言い方ではないけれど、少し強い語調でそう言いながら、武威は雪崩れたオレの私物を拾ってくれる。
この惨状を見れば、確認するまでもないだろう。
「また」と言われるのは少々心外だけど、事実だから仕方ない。
別に取られて困るようなものは入ってないのだから、という言い訳は武威には通用しない。
現に、今こうして迷惑をかけているのだから、言い返す言葉もない。
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