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「荻野」  山岸や矢野と別れて自分の教室に戻りながら考え事をしていたら、その途中で声を掛けられた。 「丁度良かった」  そう言いながら、同じクラスの宮永が駆け寄ってきた。 「ちょっと一緒に来て」  宮永に呼び止められるなんて珍しい、と思っていたら腕を掴まれた。  そのまま、今歩いて来た方向へと引っ張られる。 「何?」 「すぐに済むから」  何の説明もない上に、オレの拒否権も無いらしい。  宮永はこちらを振り向く事も、オレの腕を離す気もないようだ。  生徒達が行きかう昼休みの廊下を、強引に腕を引かれながら歩く。  辿りついた先は、校舎の裏。  ゴミ置き場になっている、あまり日の当たらない人気(ひとけ)のない場所だ。  今はもう使われなくなった焼却炉が、存在感を消して風景に溶け込むように佇んでいる。  こんな場所に連れて来られる心当たりは全く無い。  昼間なのに校舎の影になっているから空気は湿っぽくて、その所為かあまり良い話ではないような気がしていた。 「こんな所に連れて来て、何の用だよ」 「何の用かも分からないでこんな所まで連れてこられるなんて、荻野は本当に警戒心が無いんだな」  連れてきた張本人のクセに、宮永が呆れ返ったように言う。  一つも説明をしなかった奴が言うセリフとは思えない。 「蔵原が心配するのもよく分かる」  ここで武威は関係無いだろ。  大体、同じクラスの奴にいちいち警戒なんかしてられるか。  そもそも、警戒って何にだよ。 「蔵原の事、振って欲しいんだ」 「・・・は?」  移動中から何の用事だろう、とあれこれ考えていたけれど、全く見当違いな角度から切り込まれて間抜けな声が漏れた。 「最近よく昼飯を一緒に食べている二年生と付き合っているなら、ちゃんと振ってやって欲しい」 「なんで・・・」  なんで、武威を振らなければならないのか。  なんで、昼飯を数回一緒に食べたくらいで付き合っているという事になるのか。  なんで、それを宮永に言われなければならないのか。  文句に似た疑問が次々に浮かんできて、上手く言葉にすることができない。 「蔵原を振り回すの、もう止めろよ」  憐れむような宮永の言葉は、誰に向けられているのか。  オレか、それとも武威か。
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