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自分の事は、自分だけが知っていればいいと思っていた。
誰にどう思われているかなんて、大した事ではない。
そんなもの、日々の生活を送るのに必要なかったし、気にもならなかった。
けれど、今となっては、もっと気にしておけば良かったと思う。
こんなにも、自分と他人との間に差異があるとは思わなかった。
そもそも、校内で注目されていたとも知らなかった。
仲の良い友達が恋人だと思われていたとか、告白された後輩と数回昼飯を食べたら付き合っていると誤解されるとか、馬鹿馬鹿しいけど馬鹿にはできない。
誰にどう思われているか大した事ではない、というのには変わりはない。
変わったのは、武威にどう思われているか気になるようになった、という事だ。
全員に理解してもらう必要はない。
ただ、武威にだけは誤解されたくない。
「宮永がどうしてそんなに蔵原に肩入れするのか知らないけど、オレとしては武威を振るつもりはないから」
はっきり言うと、宮永が睨むようにこちらを見た。
宮永の意図が不明だけど、オレに敵意を抱いているのはおそらく間違いない。
身に覚えはないが、知らないうちに何か気に障るような事をしたらしい。
「今更そういう事を言うとか、本当に荻野ってムカツク」
そう言うなり、宮永の手がこちらに伸びてきた。
避ける間もなく胸ぐらを掴まれる。
「もっと早く気付けよ。せめて、蔵原が傷つく前に!」
息が掛かるくらいの距離で宮永が言う。
悲しくて痛々しい、怒りを帯びた瞳で。
さすがのオレでも察しがついた。
「宮永は、武威が好きなのか」
ようやく理解した宮永の言動に、思わず声が漏れる。
「!?」
全く悪気はなかったが、宮永にとっては触れられたくない所だったらしい。
見る見るうちに顔が紅潮し、オレの服を掴んでいた手にも力が入った。
少し苦しい。
「荻野は人に興味が無さすぎる」
宮永は吐き捨てるように言って、ようやくオレの胸ぐらから手を放した。
「オレよりも、蔵原の気持ちに気付いてやれよ」
行き場のないもどかしい気持ちをぶつけるように、宮永が顔を背けながら呟いた。
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