09

5/10

246人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
   確かにオレは他人に無頓着だ。  ここ数日間で、今まで何も見えていなかったのだと知った。  そして今、宮永が武威を好きなのだと知り、少し焦りを感じている自分に驚く。  今まで自分がいた場所を、宮永に取られてしまうのではないかという焦燥感。  短絡的だけど、オレよりも武威の気持ちに敏感で、武威に好意を抱く人物を前にしては、気持ちを自覚したばかりの新参者としては動揺せずにはいられない。 「オレだって分かりたいよ」  苛立ちが押し出されたように、言葉が出てきた。 「武威の気持ちが分からないから、こんなに悩んでいるんじゃないか」  宮永に言われるまでもなく、誰よりも武威の事を分かりたいと思っている。  それが上手くいかない上に、武威に好意を寄せる宮永の存在に焦って居てもたってもいられなくなった。  いつも当たり前のように隣にいたから、武威の傍にいる為にどうしたら良いのかなんて考えたこともなかった。  武威の横の、いつもオレがいた場所に、例えば宮永がいる事になるかもしれないなんて、想像しただけで辛くて我慢できない。  どうしたらいい?  どうしたら、今までのように武威が傍にいてくれる?  長い指が、なぞるように顔から胸に移動する。  突き放すように、指先が胸元を弾く。  あの時、武威がどんな表情をしていたのか覚えていない。  呆れていたのか、嘲笑っていたのか、それとも願っていたのか。  どちらにしても、胸を締め付けるようなこの痛みを伝えなければ終われない。  微かに聞こえた、「傍にいたかった」という言葉に縋って前を向く。  やはり、覚悟を決めるしかない。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

246人が本棚に入れています
本棚に追加