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もうじき昼休みが終わろうかという面倒な時間に、騒がしい教室に滑り込んだ。
ただし、ここはオレの教室ではない。
隣の、武威の教室だ。
後ろの方の席に辛気臭く座っている武威を発見して、その前に立った。
オレに気づいてこちらを見た武威は、少し驚いたように目を大きくした。
ここにオレがいることが、そんなに意外か。
「何か用か?」
すぐに目を逸らして、素っ気無く訊いてくる。
「授業始まるぞ」
早く帰れと言わんばかりの口調と態度。
もう慣れたっていうのも変な話だけど、最初の時ほどのショックはない。
「思えるようになった」
教室の喧騒に掻き消されないように、はっきりとした口調と音量でそう告げた。
目の前にあるのは、怪訝そうな武威の顔。
「は?」
逸らした顔がやっとこちらを向いた。
「武威に、抱かれてもいいと思えるようになった」
それまでザワザワとしていた教室内が、一瞬にして静まり返った。
武威も固まったまま動かない。
人がせっかく覚悟を決めて来たというのに、凍りつくのは失礼だろ。
元はといえば、武威が言い出した事なのに。
それとも、聞こえなかったのか?
そんな筈はないと思うけど、もう一回言ってみるか。
「だから、武威に抱・・・っ」
言葉を遮るようにしてガタッと勢いよく立ち上がった武威が、強引に手を伸ばしてオレの口を塞いだ。
それから、マネキンを抱えるようにして教室の外にオレを引き摺っていった。
抵抗のしようもないくらいの力だったけど、する気もなかったから、されるが儘に引き摺られた。
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