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  「馬鹿か、お前はっ!?」  廊下の端まで引き摺られて、頭ごなしに怒鳴られた。  怒られるのは久々な気がする。  だけど、声が大きすぎて若干不愉快だ。 「つーか馬鹿だろ、お前!」  本当に不愉快だ。 「断言するなよ」 「あのな、利口な人間は大衆の面前であんな事言わねぇんだよ」 「大衆って言ったって、たかだか40人足らずだろ」  それほど大した人数じゃない。 「その考え方が、馬鹿だって言うんだよ」  完全に呆れ返ってしまったらしく、武威は頭を抱えて壁に寄りかかった。 「信じられねぇ」  そんなに言われるような事をしたか?  オレにしてみれば、昨日の武威の発言の方が衝撃的だったけどな。  それについての答えを言っただけじゃないか。 「これでまた餌食になるぞ、噂の」  別にいいと思うけどな、それくらい。  だって、オレが本当に言った事なのだから。  根も葉もない噂を流されるより、よっぽど良いと思う。  そんな事よりも・・・。 「どうなんだよ、武威」  はぐらかす武威がもどかしくて、強引に話を戻した。 「武威こそ、オレが抱いてって言ったら、抱けるのか?」  オレのその質問を最後に、空気も時間も止まったようだった。  遠くから聞こえる喧騒やチャイムの音からは、完全に隔離されている。  ここにはオレと武威しかいない。  そんな瞬間になった。  沈黙を破ったのは武威だった。 「俺じゃないだろ」  最近よく聞く、突き放すような物言い。 「お前がそれを言う相手は、俺じゃないだろ」  冷たく言い放って、そのまま教室に戻ろうとする武威の腕を掴んで引き止めた。 「武威だよ」  武威以外の誰がいるというのか。  オレには誰の顔も浮かばない。 「じゃあ、あいつは何なんだよ」  あいつ? 「田辺の言ってた奴なんだろ? 告白されて、付き合っているんだろ」  何を言われたのか理解するのに、少し時間かが掛かった。
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