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   思考をめぐらせて、思い当たるものを探す。  山岸のことか。  もしかしなくても、誤解されているな。  宮永もそう思っていたようだし、矢野もそんなような事を言っていた気がする。  傍からはそう見えていたんだな。  オレと山岸の事を勘ぐって、それで武威はオレを避けていたのか。  確かに告白されたけど、付き合ってなんかない。  最近は一緒にいる事も多いけど、それは武威がオレを避けるからだ。  その隙間に丁度嵌まっただけのこと。  それに、山岸が本当に好きなのはオレじゃないし。 「あいつがいるのに、どうして俺の所に来るんだよ」  見事な誤解だ。 「違うよ」  少し気が抜けて、声にも力が無くなった。  そうだったよな。  武威に山岸のことは話していなかったな。  と言うよりは、あの直後から武威と世間話も出来なくなってしまったから、言えなかったんだ。  今のオレの気持ちを分かってもらうには、まずは山岸のことから説明をしなければならないのだった。 「山岸は友達だよ」  後輩だけど、相談に乗ってくれる貴重な友人になったんだ。 「だから、お前は馬鹿なんだよ」  順を追って話そうとした矢先に、武威に話の腰を折られた。  これで何回目の「馬鹿」だろう。  随分と簡単に言ってくれるじゃないか。 「お前がそう思っていても、向こうはそうとは限らないって、どうして分からないんだよ!」 「そうかもしれないけど、山岸は違うんだって」 「言い切れんのか?」  最初から疑っている武威には、今のままだと何を言っても信じてもらえそうも無い。  まず、オレの話を聞く気がないんだな。  またしても不愉快だ。
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