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こんなにも伝わらない事があるなんて知らなかった。
オレと武威の間で、行き違いが起こるなんて考えたこともない。
言葉が全て無力に感じる。
歯痒いな。
どうしても分かってもらわなければならないのに、どうやっても伝わらない。
きっと見ているものが違うんだな。
同じものを見ていても、見え方が違っている。
「オレの事、そんなに信用できない?」
悲しい気持ちで訊いた。
「好きって言ってもまともに取り合ってくれないのは、オレが馬鹿で信用できないから?」
せつない感情が込み上げてきて言葉が止まらない。
「オレの事『友達だと思ったことない』って、嫌いって事?」
泣きそうになるのを必死に堪えて口を開いた。
「嫌いなら、どうして抱かせろなんて言うんだよ」
山岸は「一番大切な人に言う」と言っていたけれど、武威の態度を見る限り、そんな風に自惚れられない。
「もう、顔も見たくないから、あんな事を言ってオレを遠ざけようとしているのか」
だとしたら辛すぎる。
そんな方法を取らなくても、もっと他にあっただろう。
「どうしてそういう発想になるんだよ」
驚いた顔がこちらを見ている。
どうせ、また「馬鹿」って思っているのだろう。
「やっぱり、和海は何も分かっていない」
眉間に皺を寄せて、オレだけが悪いみたいに言う。
そんな言い方をされたら、言い返したくなるに決まっているだろ。
「周りは皆して武威はオレが好きだと言うけど、そんなの本人から言われたことなんか無いし、男なんか抱いても気持ちよくないみたいな事を言ってたクセに、いきなり抱かせろ的な事言ってくるし。傍にいたかったとか言ったのに逃げるし、話も聞かないし、そんな奴の気持ちをどう分かれって言うんだよ!」
ずっと溜まっていた、モヤモヤしたものが溢れ出た。
投げ付けるみたいに武威に言って、その勢いのまま踵を返して走り出していた。
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