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逃げた、と言われても仕方ない。
現に、逃げたのだ。
溢れた想いに気持ちが昂って、どうにもならないくらいに涙が零れそうになったから。
「・・・っ!?」
廊下の角を曲がった所で滑って、べちゃっと転んだ。
痛い。
膝と、咄嗟に付いた掌と、それから胸の奥の方が。
抱かれたいと思うようになった、と告げたのに、駄目だった。
山岸の事も信じてもらえなかった。
何も分かっていない、と言われてしまった。
もう駄目なのかもしれない、と弱気にもなる。
床の冷たい感触に手を付いて起き上がり、弱気になった頭を横に振る。
駄目なのはオレだ。
ようやく武威を捕まえたのに、自分から逃げるなんてとんでもない。
何をやっているんだ、オレは。
今から戻って・・・。
「和海、大丈夫か?」
「うわっ!!」
背後から武威に声を掛けられて、飛び上がるくらいに驚いた。
勢いで立ち上がっていたのだから、実際に飛び上がっていたのかもしれない。
追いかけて来てくれたのは嬉しいが、逃げ出した手前、気まずすぎる。
しかも、目には涙が滲んでいるし。
「全然大丈夫!」
そして、居た堪れなさに耐え切れず再び走り出した。
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