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 武威から逃げ出したオレが潜伏しているのは、勝手知ったる生徒会室だ。  教室に戻って授業を受ける事も考えたが、真っ赤な目のままでは戻るに戻れない。  泣いた事がバレバレだ。  身を隠せる場所なんて、生徒会長権限で合鍵を持たされている生徒会室くらいしか思いつかなかった。  生徒会室には、いつも皆が仕事やら談笑やらをするスペースの奥に、もう一部屋ある。  歴代の委員会の資料や、イベントやらで使う小道具等が置かれている、倉庫のような部屋だ。  雰囲気で資料室と呼んでいる。  その資料室の一角に、三人掛けのソファーが鎮座している。  何代か前の会長が持ち込んだもので、ソファー自体は古いものだけどまだまだ十分活躍してくれている。  試験の時や文化祭の準備中とか、気分転換や仮眠に無くてはならない存在だ。  そのソファーに、両膝を抱えた状態で座っているのが今のオレだ。  膝の上に額を乗せて、猛烈に反省しているところだ。  せっかく武威を捕まえられたというのに、なんたる失態。  乗り込んで、逃げ出して、転んで、そしてまた逃げるなんて、一体何がしたかったんだ。  好きだと言ったら、それで全部収まると思っていた自分の浅はかさに溜息が出る。  自分も散々したじゃないか。  告白された相手に「だから、何?」って。  もちろん言葉にはしなかったし、もっと柔らかい言い方で断ったけど、そう思っていた事は否定しない。  それがブーメランで返ってきて、サックリと胸に刺さっただけ。  あの時、武威が呟いた「傍にいたかった」っていうのも、よく考えたら過去形だし。  好きで「だから、何?」だし。  「馬鹿」って怒鳴るし。  信用されていないし。  だけど。  逃げたオレを追いかけて来てくれた。  「大丈夫か?」って心配してくれた。  嫌われている訳ではない、と思ってもいいんだよな。  山岸との誤解を何とかすれば、少しは道が開けるかもしれない。  開けないかもしれないけど。
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