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  「こっちにも何か落ちていましたよ」  そう言って矢野が差し出したのは、見覚えの無い封筒だった。 「何それ」 「何って、先輩の鞄から出たやつでしょ」 「オレのじゃないぞ」  本当に、そんな封筒は見たこともない。 「荻野先輩が鞄ブチ撒ける前にはなかったんですから、間違いないですよ」  そんな事を言われても、知らないものは知らないのだ。 「宛名も差出人の名前も書いてないようですけどね」  矢野の持つ封筒を見ながら、田辺が冷静に言った。  だったら、オレのものかどうかなんて分からないじゃないか。 「ラブレターじゃないですか?」  興味津々に封筒を蛍光灯に翳すので、思わず矢野の手からそれを掴み取った。  いつもだったらそんな言葉に反応なんてしないが、今のオレは違う。  悲しいかな、その可能性は無きにしも非ず、という状態だからな。 「まさか」  と笑いながら、その辺にあった備品のハサミを使って封筒を開けてみる。  封筒の中から出てきたのは、やけにくたびれた一枚の紙だった。  時間が経ったとかではなくて、故意に手で丸めた後に頑張って伸ばしたような。  少し汚れているのも気にならないくらい、ぐしゃぐしゃだ。  何だ、これは。  オレの鞄をゴミ箱と間違えたって事はないだろうし。  わざわざ封筒になんか入れないよな。  だとしたら、嫌がらせ? 「うっわ、イタズラっすか?」  封筒から出した紙を見た矢野が、引き気味にそう言った。  やっぱりそうかな。 「何かの写真みたいだけど・・・」  と答えながら、写真ではないと確信していた。  これはポストカードだ。  碧い海がやけに印象的な、比較的よくあるようなポストカード。 「ポストカードか」 「裏に何か書いてあるんじゃないですか?」  オレの呟きを拾った田辺が、実に尤もな発言をする。 「そっか」  素直に聞き入れて、すぐに裏返した。
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