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 午後の授業が終わる頃には目の腫れも落ち着いているだろうし、もう一度武威に会いに行ってみよう。  格好悪いし、上手くいかないかもしれないけど、もう少し頑張ってみよう。  と、あまり大きくはない窓から注ぐ陽の光にウトウトしつつ、緩い決意をした所で、何やら物音が聞こえた。  隣の部屋のドアが開く音。  誰かが入って来る音。  足音がこちらの部屋に近づいてくる。  きっと、オレの他にも授業をサボろうとやって来た奴がいるんだな。  良い事ではないが、ここはそういう時にうってつけだから。  矢野辺りかな、とぼんやり思って顔を上げると、丁度ドアが開いた。  そこに立っていたのは、何故か武威だった。  ウトウトしていたから、寝ぼけているようだ。  じっと見て、瞬きをして、もう一度確かめるように見る。 「!?」  前のめりになりすぎて、ぐしゃっとソファーから落ちた。  痛い。 「なにやってんだよ!」  怒声とともに抱き起こされる。  目の前に武威の顔。  体温といい、痛みといい、現実のようだ。 「なんで?」  ここにいるのか、とまでは言葉にできなかったが、雰囲気で伝わったらしい。 「和海に言われて、自分でも支離滅裂だと思ったから」  気まずそうに答えてくれたけれど、それはオレの質問の答えになっているだろうか。  やはり雰囲気では伝わらなかったようだ。 「そんな事より、お前、さっきもコケてただろ。怪我、大丈夫か?」  いつものように心配されて、じわじわと胸の奥が熱くなる。  そんなに優しい言葉を掛けてもらったのは、何日ぶりだろう。  たった数日程度で、こんなにも懐かしく感じる。 「和海?」  ようやく止まった涙が再び溢れてきて、それを見た武威が驚いているようだ。  はらはらと涙を流すオレに狼狽える武威の反応は、何故か安心できて余計に涙が止まらない。
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