10

3/6

246人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「どうして泣くんだよ」  と、問われて、鼻を啜りながら何とか言葉にする。 「た・・・けい、が」  何とかそこまで言って、続く言葉が出てこない。   片言以下で、何も答えられていない。 「俺の所為かよ」  困ったような武威の呟きに、酷く悲しくなる。  突き放されたような気がして、咄嗟に武威の腕を掴んだ。 「とりあえず、泣き止んでほしいんだけど、どうしたらいい?」  オレが泣いているのが自分の所為だと思っている武威は、親切にも歩み寄ってくれようとしているらしい。  せっかくの申し出なので、素直にお言葉に甘える事にする。 「武威が、オレの事を好きって言ってくれたら」  それは言わせるものではない。  けれど、心が無くては意味のない言葉を、それでもいいから言って欲しいと思ってしまった。  武威がどんな反応するのかが怖くて、掴む手に力が入る。 「オレの事、嫌いじゃないって、言って」  せめて、「嫌ってはいない」と武威の口から聞きたかった。  「好き」ではなくてもいいから、せめて。 「嫌う訳ないだろ」  何を今更、というような言い方が心地良い。  少なくとも、嫌われてはいないと分かっただけで十分だ。  と、胸を撫で下ろしていたオレの髪に、武威の手が触れた。 「和海の事が大好きだよ」  そしてこの一言。  言ってくれ、と言ったのは自分のクセに、言われた事に驚いて息が止まる。  武威の声が脳内で何度も回って、あまりにも焦がれていた言葉を受け止めきれずに、再々度涙が溢れていた。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

246人が本棚に入れています
本棚に追加