246人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
「どうして泣くんだよ」
と、問われて、鼻を啜りながら何とか言葉にする。
「た・・・けい、が」
何とかそこまで言って、続く言葉が出てこない。
片言以下で、何も答えられていない。
「俺の所為かよ」
困ったような武威の呟きに、酷く悲しくなる。
突き放されたような気がして、咄嗟に武威の腕を掴んだ。
「とりあえず、泣き止んでほしいんだけど、どうしたらいい?」
オレが泣いているのが自分の所為だと思っている武威は、親切にも歩み寄ってくれようとしているらしい。
せっかくの申し出なので、素直にお言葉に甘える事にする。
「武威が、オレの事を好きって言ってくれたら」
それは言わせるものではない。
けれど、心が無くては意味のない言葉を、それでもいいから言って欲しいと思ってしまった。
武威がどんな反応するのかが怖くて、掴む手に力が入る。
「オレの事、嫌いじゃないって、言って」
せめて、「嫌ってはいない」と武威の口から聞きたかった。
「好き」ではなくてもいいから、せめて。
「嫌う訳ないだろ」
何を今更、というような言い方が心地良い。
少なくとも、嫌われてはいないと分かっただけで十分だ。
と、胸を撫で下ろしていたオレの髪に、武威の手が触れた。
「和海の事が大好きだよ」
そしてこの一言。
言ってくれ、と言ったのは自分のクセに、言われた事に驚いて息が止まる。
武威の声が脳内で何度も回って、あまりにも焦がれていた言葉を受け止めきれずに、再々度涙が溢れていた。
最初のコメントを投稿しよう!