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「抱き合っただけでキスもしてないなんて、あんたらは小学生ですか」
呆れ返ったような口調で一刀両断してくれたのは、言わずと知れた山岸だ。
個人的には、そこまで言われる程酷い結果ではないと思っているんだけどな。
山岸にとっては驚きなんだろう。
「そりゃ、欲望のまま行動できる山岸と比べられたら、小学生どころか幼稚園児でも仕方ないかもな」
「ちょっ・・・! それを、言われたら・・・」
何かを言い返そうとしたが、途中で自己嫌悪に負けて見る見るうちにテーブルに突っ伏してしまった。
まだ付き合いの短い後輩だけど、こんなに取り乱した所は初めて見る。
相当触れられたくないことだったらしい。
放課後の学食は、昼とは違い生徒も疎らで、多少騒がしくしてもそれほど迷惑ではない。
そう思い、田辺と山岸を呼んで報告会中だ。
「俺の心の傷を抉るのは止めてもらっていいですか」
呻くように言う山岸の隣の椅子には、かなり鬱陶しそうな表情で山岸を睨む田辺が座っている。
「まるで、お前が被害者みたいな言い方だな」
「!?」
田辺の一言は山岸にザックリと突き刺さったようだ。
それはそうだろう。
山岸情報だと、田辺は襲われたようだし。
その田辺を前にして「心の傷」なんて笑えない。
「荻野先輩も、人のそういう話を、ついでの話題にするのはやめてもらえませんか」
珍しくご立腹気味の田辺に、オレが奢ったペットボトルのレモンティーを握りつぶさんばかりの語気で注意された。
「そーだよな。和海さんって、そーいう所のデリカシー無いよな」
「お前もだ」
「言い出したのは和海さんだろ」
「・・・何ですか?」
割と仲のいい2人の様子をじっと見ていたら、田辺が不審そうな顔を向けてきた。
「いつもそんな感じなのか?」
「と言うと?」
田辺は、完全に無視されて不満そうな山岸を片手で押し退けて更に訊いてきた。
本当に分かっていない訳ではないだろうに。
わざと言わせたいなんて、可愛い所もあるんだな。
「楽しそうだなぁ、って」
「そう見えます?」
間髪入れずに聞き返してきたのは、山岸の方だった。
「俺、いっつも虐げられてるんですよ。和海さんからも言ってくださいよ、もっと俺に優しくしろって」
なんて言ってる表情が、既に幸せ者の顔をしている。
こんな奴らに口を出すなんて野暮は、さすがのオレでもできないよな。
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