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「田辺に聞きたいことがあるんだけど、いいか?」
「・・・答えられることなら」
少しご機嫌斜めな田辺が、先輩に言われて仕方なしにというように頷いた。
山岸との事を訊かれると思っているらしく、若干の警戒が滲み出ている。
「これも田辺だよな? これ、どこで手に入れたんだ?」
と、訊きながら見せたのは封筒。
中には、例の告白の一言が書かれたカードが入っている。
「と言うか、どうしてわざわざ一回丸めたりしたんだ?」
オレの質問に、田辺は一瞬だけ面食らったような表情を見せた。
オレなりに、色々と考えてみたのだ。
きっと田辺は、山岸という伏兵を使うことによって、実際にこれを書いた人間の心を揺さぶってみたのではないだろうか。
第1段階は手紙を送る。
第2段階で山岸を登場させる。
その次の段階まで用意していたのかは知らないけど、そうやってオレたちの反応を窺っていた。
田辺だったら、オレの鞄に近づく機会はあるから封筒を忍び込ませることも可能だ。
だけど、この考えには謎やら穴がいくつかある。
どうしてぐしゃぐしゃにしなければいけないのか。
どうして最初から山岸の名を書いておかなかったのか。
どうして田辺がこんなことをする必要があったのか。
そもそも、これがオレ宛てであるとどうして分かったのか。
「丸めたのはオレじゃありません。元々です」
驚いたような顔を見せたのはほんの一瞬で、田辺はすぐにいつもの妙に落ち着いた口調でそう答えた。
「元々? じゃあ、丸めて捨ててあったのを拾ってオレに渡したって事か?」
「捨ててあったって、よく分かりますね」
怪訝そうではあるが、その答えは肯定と捉えて間違いなさそうだ。
「普通、紙を丸めるのって捨てる時だろ」
「なるほど」
納得したように呟いて、何かを考えるように目を伏せた。
「最初っから変だなとは思ってたんだけど、お前らが関わっているって分かって、余計に分からない事だらけになったんだよな」
解けない数学の問題を前にした時のような、モヤモヤとした気持ちで頭を掻いた。
田辺に悪気はないようだけど、どうしても腑に落ちない。
「あー、そう言えば、最初に俺と会った時も差出人が俺じゃないって知ってましたよね」
初めて会った時の事を思い出したらしい山岸が言う。
「もしかして、会長はそれを書いた人物を知ってたんですか?」
オレの持つ封筒を指して田辺が訊いてきた。
田辺にしては珍しく、本気で訊ねているようだ。
と言うことは、オレが気付くとは思っていなかったのだろうか。
それはちよっと侮り過ぎだと思うぞ。
「知ってるって言うか、そうかなって思ってただけだけど」
「えーーっ!?」
言い終わるより先に、山岸が大声を上げて騒いだ。
予想外の反応だったから、こっちもビックリだ。
「そんなに驚く事かよ」
「だって、そんな事一言も言ってなかったじゃないですかっ」
「名前が無かったから、知られたくないのかと思ったんだよ」
「・・・何言ってんのか意味分かんないんですけど」
大袈裟に頭を抱えた山岸が呻くように言った。
全く、先輩に向かって失礼な奴だな。
「だから、名前を書いて無いって事は名乗りたくないんだと思ったから、なるべく触れないようにしようと思ったって事」
「その考え方ってどうなんスか・・・」
「何でだよ。そう言う事だろ」
オレには、名無しの理由が他に思いつかなかったんだから。
書いた奴と差し出した奴が違うって、後から知ったこっちのハンデも汲めよ。
「そもそも、名乗りたくないんだったら告白なんてしないでしょ!」
「だから、変だなと思ったって言ってるだろ」
この行動の理解ができなくて、ひょっとしたら新しい遊びとか、何かの罰ゲームとか考えてみたりもした。
それにしても不自然すぎだ。
これは、確かめても良い事なのだろうか。
それとも、そっとしておくべきなのだろうか。
と、オレにしては結構悩んだんだ。
「大体、どうして誰が書いたかなんて分かったんですか」
かなり投げ槍な態度で山岸が訊いてくる。
もうどうでもいいけど一応訊いておく、程度に。
そんなの決まってるじゃないか。
「筆跡で」
「・・・ひっ、せき?」
正直に答えると復唱した山岸の顔が引き攣った。
何か変な事を言ったか?
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