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「せんせー、荻野が鼻血垂れ流してるんで救出してもいいですかー」
あと十数分で午前の授業が終わるという集中力の切れかかった時間帯の教室に、突然、宮永の声が響き渡った。
黒板をぼんやりと見ていた所に、何の前触れもなく名指しされ、驚きのあまり肩が上下した。
「え?」
周りを見渡すと、教師を含め、教室内全員の視線が集まっていた。
2列向こうの席に座っている宮永は、挙手した態勢のままこちらを見ている。
目が合ったその表情は、驚きと呆れの混ざった嘲笑という複雑なものだった。
顔の中心辺りに嫌な生暖かさを感じて咄嗟に触れると、指が赤く染まった。
そのあまりの赤さに動きが止まる。
「どうしたんだ、荻野!」
「大丈夫か!?」
周囲が慌てる中、視線を自分の胸元に落とすと、そこには赤い物が点々と・・・。
「うわっ!」
不用意に下を向いた所為で、ボタボタと血が落ちてしまった。
気付くのが遅かった為、今更手で押さえても何の解決にもならない。
え。
何で鼻血!?
今、授業中で、どこかにぶつけた訳でも、誰かに殴られた訳でもないのに。
鼻血って、こんなに何気なく普通に出てくるものだっけ?
実は気付かなかっただけで、何かしらの攻撃を受けていたのかもしれない、という発想が過って挙動不審になる。
「慌てるな、落ち着け」
そんな冷静な声がしたのは頭上からだった。
いつの間にか傍に来てくれた宮永が、オレの鼻をやや乱暴につまんだ。
「へ?」
「自分で持て」
言われるがまま、宮永に代わって自分の鼻をつまむ。
「顔は下向けとけ」
タオルを差し出しながら助言もくれる。
なんて良い奴なんだ。
鼻をつまみながら下を向いて、授業中に鼻血を出してしまった恥ずかしさよりも、宮永のテキパキとした働きに感心をしていた。
数分後には流血は止まったので、廊下に設置されている手洗い場に向かった。
授業はあと数分で終わるため、教師も「そのまま昼休みにしていい」と言ってくれた。
「いきなり鼻血出すとか、授業中に何を考えてたんだか」
そして、何故か宮永が付き添ってくれている。
口調は厳しいが、的確な世話を焼いてくれるので助かる。
今まで全くと言って良い程接点のなかった宮永だが、裏庭での決闘(オレが勝手にそう呼んでいるだけだけど)以降、少しずつ会話する機会が増えている。
武威に関してライバルとなったオレに対する牽制のようなものだろうけど、オレとしては、気軽に話ができる友達が増えて嬉しい。
最近気付いたけど、オレって友達が少ないからな。
今だって、授業中に鼻血が出ているなんてよく見つけてくれたよな。
宮永が言ってくれなかったら、もっと大参事になっていただろう。
制服が汚れなくて良かった、と一息つきながら蛇口を捻って、勢い良く出る水に手を入れる。
まだ乾ききっていない血は、水圧に押されて一瞬で消えていった。
爪先の汚れを擦りながら、こんな事態になってしまった心当たりに行き着いた。
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