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「はぁ…」  と、武威の大きな溜め息が響くのは、生徒会室に隣接した資料室だ。  武威は、頭を抱えるようにしてソファに腰を下ろした。  廊下で怒鳴ってからここにやって来るに至るまで、ずっとそんな調子だ。  オレは部屋の入り口付近に立ったまま、武威の様子を見守っていた。  おそらく、武威が頭を抱えている原因はオレなのだ。  黙っているべきか、口を出すべきか。  武威にとって、どちらを選択するのが良いのだろうか。 「和海」  迷っていると、武威がか細い声でオレを呼んだ。  困惑した瞳がこちらを見ている。 「欲求不満というのは…」 「そうなんだよ。武威で邪な事を考えてしまって鼻血沙汰だ」  自分でも予想外の出来事だった為、気が焦ってしまって何の説明にもなっていない。 「意味が分からない」  だから、武威の反応もそうなってしまうのは仕方ないだろう。  とは言え、欲求不満の中身を詳しく説明するのは些か恥ずかしい。 「武威に抱かれるのはどういう感じなのかな、と想像したら、いつの間にか鼻血が出ていて」  正直に言うと、武威の表情がみるみるうちに険しくなってしまった。  これは、完全に引いているな。  確認するまでもない。 「なんか、ごめんな」 「どうして謝るんだよ」  無性に申し訳ない気持ちになって謝るしかない、と思って謝ったが、何故か責めるように問われた。  じっとこちらを見る武威の表情には、苛立ちの色が見える。  それはそうだろう。  勝手に邪な妄想をされていたら気持ち悪いし、怒りたくなるのも分からなくはない。  だからこその謝罪なのに、それすら受け入れない程に愛想が尽きたのだろう。 「呆れられたかな、と思って」 「呆れてもいないし、謝る必要もねぇよ」  と武威は言うが、表情は相変わらず険しい。 「大体、どうしてそんな所に突っ立ってんだよ」  唐突に、未だに部屋の入り口に立っている事を指摘された。 「欲求不満って言ってる奴が近くにいたら嫌かな、と思って」  そもそも同じ部屋にいるのもどうかと思うのだが、武威が連れてきたのだからそこは良しとしても、あまり密着するのは気が引けてしまう。 「思わねぇよ!」  ソファから立ち上がった武威が、それ程遠くはない距離を一気に詰めてオレの手を掴んだ。 「むしろ、その方が嫌だろ」  噛み付くように言われて、確かにそうだと納得するのと同時に、手を引かれてソファに座らされた。  オレなりに気を遣っていたつもりなのだが、武威の不機嫌の理由はその気遣いだったらしい。  慣れない事はするものじゃないな。  
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