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「?」
やけに視線を感じて辺りを見回す。
今日は2限目から体育で、体育館でバレーボールだ。
体育館の半分をウチのクラスが使用し、仕切られたネットの向こう側の半分は2年生のクラスがマット運動の授業を行っている。
特に珍しくもない光景だ。
しかし、何となく落ち着かない。
同じクラスの奴も、隣の2年生達も、オレと目が合うとサッと逸らす。
話しかけても上の空で、まともな反応が返ってこない。
見てはいけない物でも見たような顔と、あからさまな態度は、あまり気分の良いものではない。
これはもしや、イジメの類ではなかろうか。
今までそんな事には無縁で過ごしてきたけど、オレの何かが誰かの勘に触って皆してオレを無視する事に決めたとか。
心当たりなんて無いけれど、そういうものだと聞くし。
しかし、隣で授業している2年生も同じ態度なのが解せない。
「荻野」
真剣に悩み始めた所で、不意に呼ばれて顔を上げた。
体育教師が手招きしてオレを呼んでいる。
「ジャージはどうした?」
呼ばれたのですぐに駆け寄ると、先生からそんな問い掛けをされた。
下は穿いているが、上は着ていない。
その事を言われているのだろうか。
だけど、体操着はちゃんと着ているので、注意される謂れはない。
「今日は暑いので教室に置いてきました」
「そうか。誰か、荻野にジャージを貸してやれ」
オレが答えると、先生は体育館中に響く程の声で生徒達に声を掛けた。
何故?
暑いから着ないって言っているのに。
「いや、暑いので今日は着ないつもりですけど」
聞えていなかったのかもしれない、と念のためもう一度言うが、オレの気分は関係無いらしく先生はジャージを求めている。
どういう事だろうか。
体操着で授業を受けている奴なんて他にもいるのに。
どうしてオレだけジャージ着用の義務があるのだろう。
訳が分からず「?」で埋め尽くされた頭に、バサッと何かが被せられた。
「!?」
「さっさと着ろ」
被せられたのは先生が要求していたジャージで、貸してくれたのは宮永だった。
「悪いな、宮永」
「いいっすよ」
申し訳なさそうに先生が礼を言うのも、それを何の疑問を抱かずに受け入れる宮永も、オレの目には不思議な光景に見えた。
そもそも、どうしてオレだけがジャージを…。
「いいから、黙って着ろ」
貸してもらったジャージを手持ったままだったオレを見た宮永が、急かすようにそう言った。
先生と宮永に促されて、仕方なくジャージに袖を通す。
「ファスナーは上まできっちり閉めろ」
羽織っただけで済まそうと思っていたのに、意外な宮永の言葉に手が止まる。
「え、閉めるの?」
「閉めろ」
先生までもそんな事を言う。
命令とも取れる強めの口調だ。
イジメ? 体罰?
そんな深刻な雰囲気ではないけど、オレの意見無視で有無を言わさぬ感じが少し納得いかない。
けれど、2人の「早くしろ」という視線に負けて、渋々ファスナーをきっちり上まで上げた。
先生はそれでようやくほっとしたようだったけど、「試合はいいから隅で休んでいろ」とこれまた意味不明な命令をされた。
釈然としないまま、体育館の壁に凭れるように腰を下ろした。
正直、今日はあまり動きたくないので助かったのだけれど。
昨日、資料室で致してからとても疲れている。
正確に言えば、武威のモノを中に挿れる事はなかった。
指は入れられたけど。
それ以上のモノは到底無理だと、武威判断で「今日は止めておこう」という事になった。
その代わりと言うか、扱き合い的な事はした。
というより、された?
今までに経験したことの無い快感に襲われて、その時の自分の言動はあやふやだ。
あれは武威が悪いと思う。
いつもは、オレに興味なんて皆無だと言わんばかりの態度を取っているクセに、欲に溺れるような色気を振り撒かれたら、こっちも煽られてしまうに決まっている。
邪な回想をした所為か、ジャージをきっちり着込んだ所為か、無性に暑くなってきて、腕をまくりながら「それにしても」と思考をめぐらせる。
武威のモノが難なく入れられるようになるには、どのくらいの労力が必要なのだろうか。
アレが収まるなんて、想像も付かない。
武威にはそういう見当は付いているのだろうか。
だからこその「今日は」なのだろうけど。
こんな事、相談するとしたら…田辺か?
立場的には同じ筈だし。
いや、でも、山岸の口ぶりから察するに、何日も掛けて慣らしたという形跡はない。
むしろ、初日にガッツリいったように聞こえた。
え。
それ、大丈夫だったのか?
ポテンシャルの違い?
それなら、オレには一生無理という可能性もあるのでは?
まてよ。
それならば、立場を逆にしても良いのではないか?
何か流れでオレが入れられる感じになっているけど、そもそもオレでなければならないという事はない。
むしろ、オレは無理かもしれないが、武威は大丈夫な可能性も無きにしも非ず…?
否、無いかな。
何しろ、オレがすっかり抱かれる気でいるからな。
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