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「またエロいこと考えてるだろ」
ドサッとオレの隣に座りながら、宮永が呆れたように言った。
バレー部の宮永は、ネットを張ったり、審判をしたりと、今日の授業で大活躍だったので、ここらで少し休憩を取るのだろう。
「何故分かる」
宮永の指摘は図星だった為、思わず肯定してしまった。
昨日の、授業中鼻血事件では前科者なので仕方ないか。
「人のジャージ着てる時に鼻血吹くなよ」
思った通り、宮永は揶揄うように昨日の事を持ち出してきた。
強引に着せておいて、その言われ様は納得できない。
「脱ぐよ。約束はできないし」
「着てろ」
ファスナーに掛けた手を掴んで止められた。
「でも…」
「いいから、着てろ」
強い口調でそう言うと、宮永は小さく息を吐いた。
「ここ、キスマーク付けられてる」
トントン、と自分の首の後ろの辺りを指しながら宮永がうんざりしたように言った。
「……は?」
一瞬、何の事か理解できなかった。
「あと、鎖骨と多分腹の辺りにも」
「え!?」
次々に言われて混乱する。
宮永の「教えてやっている」という口調から察するに、付いているのは十中八九オレだ。
そんな馬鹿な。
「昨日、鼻血を吹いたばかりだから、合わせ技でお前らの関係が進展したと大々的に宣伝してるようなもの…って、今確認するな!」
慌てて腹を見ようとジャージと体操着を纏めて掴み上げようとしたら、またしても宮永に止められた。
ようやく、ジャージ着用を強制された理由が分かった。
そんなもの見えてしまったら、気まずいよな。
むしろ、見せんなよって怒られるレベルだ。
だから皆の様子が妙だったのか。
「気付かなかった…」
「いや、気付けよ」
呆然と呟いたオレの横で、宮永が舌打ちしそうな勢いで吐き捨てるように言った。
「その時じゃなくても、風呂とか着替えとか、気付くだろ」
と言われても、そもそも自分の身体なんてまじまじと見るようなものではないし。
それに、昨日のアレから何だかぼーっとしていて、生活に必要最低限な事しかできていない。
むしろ、よく登校できたと褒めてもらいたいくらいだ。
大体、よくキスマークなんて付ける余裕があったな。
オレには考えも及ばない。
「まさか、付けるとは思ってなかったし」
「所有の証的な?」
宮永が笑いながら言った一言に引っ掛かった。
「そういうもの?」
何の為に、と思っていたけど、そういう意味があるのなら分からない事もない。
嫌がらせの可能性が頭を過った事は、自分の心の中だけに留めておこう。
「でも意外だよな。蔵原がそういう事する奴だったとは」
「確かに」
しみじみと言う宮永に激しく同意する。
オレにそんなものを付けても何の意味も無いだろうに。
意味の無い事などしない奴だと思っていたけど、どうやら違っていたらしい。
けれど宮永の言う通り、本当に所有の証ならば、オレにだけ付いているのは不公平ではないだろうか。
「と、いう事は…」
とある結論に至ったオレは、もう授業など上の空になってしまった。
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