AD3506

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AD3506

「……終わった……」 と、オズボーンは全身の力を抜いて、溜息を吐く。 「おめでとうございます。教授」 助手から声を掛けられたオズボーンは、疲れ切ってはいるものの、それでも実に穏やかな表情をしていた。 彼の前には一冊の本の原稿が置かれている。 一番上の一枚には、 『神のみぞ知る時代』 そんなタイトルが書かれていた。 それはオズボーンの長年に渡る研究の成果だ。 かつて2000年代半ばに起きた大崩壊(インパクト)と呼ばれる大規模な世界崩壊。 一説には核戦争とも、地殻変動とも言われているのだが、詳しくはわかっていない。ただ、それによって人類の文明は一度終末を迎えた。 もっとも、人類の英知は終末くらいでは終わるはずもなく……。 大崩壊(インパクト)より1000年近くの時を経て文明を再興した人類だったが、そこに大崩壊(インパクト)以前の文明がどんなものだったのかを知る者はいない。資料となるものの一切が消失してしまっているからだ。 時折、発掘される遺跡などからそれなりの研究は進められているのだが、しかし、やはり詳しいことはわかっていないのである。 しかし、20年ほど前のこと。 そうした研究の行き詰まりに風穴を開ける発見があった。 オズボーンの功績だった。 旧日本領の遺跡より彼が発掘した一冊の古文書。 古文書は殆どが朽ち果てた状態で、もはや本と呼べる状態のものではなかったが、しかし、最新の科学を用いることで、部分的な解読は可能であった。 オズボーンは解読を進めた。 来る日も来る日も、それ以外の全てを犠牲にして、教授は古文書に向き合った。 時に絶望に顔を歪めて。 また、時には狂ったように集中しながら。 そして……。 ああ。オズボーンの四半生をかけた研究成果はついに、『神のみぞ知る時代』として実を結んだのである。
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