第一章

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可愛い寝顔とは反対に、清彦は憂鬱な気分で目覚めた。 寝かけに思った妄想と、昨日のことを当主に話さなければならないことに気持ちが沈む。それが吉と出るか凶と出るか。当主の気分もあるだろうが憂鬱でならなかった。 支度を済ませ、朝食の準備に取りかかろうとすると、パタパタと足音が勢いよく聞こえてきた。ノックと同時にドアが開く。小言を言ってやろうと振り返った先には、本宅の使用人が顔を覗かせた。 「清彦様、大変です!成宮の、ご当主様の会社が!」 息を切らし、ぺたんと座り込んだ。 「買収、されたみたいです!」 買収…昨晩、大吾が言った戯言が目の前に突きつけられた気がした。 「それは、事実なのか?」 噂話を耳に入れようとしているなら話は別だ。こんな大それた噂話なら注意をしなくてはいけない。 「昨晩から、ご当主様、帰っておられなくて…先程、結城様と言われる方が、来られて…この屋敷も抵当に入ってるらしくて…どうしましょう…」 「どうしたの…」 座り込んだ使用人の後ろから目を擦りながら柾樹が顔を見せる。女は慌てて立ち上がり、柾樹に会釈をした。 本宅の使用人は柾樹に会うことはない。初見の柾樹を食い入るように見つめている。     
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