第一章

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我が子に体を売れという親がどこにいるだろう。あの清らかで無垢な柾樹の身体を差し出して金儲けの道具にしようとでも言うのか。 所詮、雇われの身。言い返すことなどままならないが、理不尽な当主には嫌気がさしていた。まだ十八かと呟いた当主の言葉に身の毛がよだったのだ。 本宅から戻れば、テラスで:冷水(ひやみず)に足をつけ、指先で水を飛ばしながら本を読んでいる柾樹の横顔が見える。 飲み物を持ちドアを開ければ、裸足のままあどけない笑顔を見せ飛んでくる。 「おかえり、清彦。お父様なんか言ってた?」 腰に巻きついた柾樹を連れたままテーブルに置き、柔らかい髪を撫でてやる。 「柾樹様が元気なられることを見守っておられるのです。優しいお父様ですね」 心にもないことを口にする自分に嫌気がさすがこれも仕事だと溜息を吐く。 できることならこのまま柾樹と二人で暮らしていきたい。誰にも邪魔されずのんびり暮らしたいと叶わない思いを胸の奥に隠す。 それっきりその話は口にしない柾樹は、また本を手に冷水に足をつけた。 あと二年。その先この子はどうなるんだろう。外の世界を知らないこの子があの鬼ような親にどうされるのか。 ただ、こうやってお仕えするだけの自分に何ができるのか、答えの出ないジレンマに焦りは募っていった。
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