第一章

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柾樹を抱えたまま電話をかける。奴しか頼る相手はいないのだが、会うのは久しぶりだ。 清彦にしがみついて震えながら泣いている柾樹を抱きしめ、憎悪と苛立ちを抑えながら繋がるであろう向こうの奴に、怒りをぶつけそうな勢いで早く出ろよと心中は叫んでいた。 『はい。どなた?』 呑気な声が耳に届く。感情を煽るようなその声に苛立ちが増す。 「久しぶりだな。頼みがあるんだ、すぐに来てくれないだろうか」 向こうからは「わかった」とだけ返事を残し通話は切れた。あまり頼りたくはないが、この緊急事態に悔しいが奴の顔しか浮かんでこなかった。 「名前も名乗らず、すぐに来いって…俺が仕事だったらどうしてたんだよ、まったく」 ものの数十分で現れた奴は、いとも簡単に塀を乗り越え、開いていた窓から顔を覗かせた。 窓枠に乗り律儀に靴を脱いで床に足を下ろす。その男は清彦の幼馴染みで元警官の結城 大吾といい、退職し、今は実家の酒屋を継いでいる。 「どうしたんだ?暴漢か?」 呻きながら転がる男に近寄り覗き見て、清彦に振り返る。 「そうだ、柾樹を襲ったんだ…そのツラ、どこかで見たと思ったら…先週まで来ていた植木屋の職人だ」     
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