慟哭

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この秋田は平田篤胤の生まれ故郷であるから、平田国学を学ぶ者が多い。 だから、自然と尊皇攘夷の志を持つ志士が道場に集まって来た。 『志渡さん!今日は何を教えて下さるんですか!?』 『三郎……お前には立派な兄上達がいるだろうが……』 木刀を持った三郎が瞳をキラキラさせながら、道場にやって来た志渡長治(金輪五郎)に走り寄ってきた。 一度、鍛錬に付き合ってから、何故か十と二も離れた三郎になつかれてしまった。 『織之助兄さんは専蔵兄さんがいるから、相手にして貰えないんですよ』 末の弟、千萬雄は三郎よりも四つも下で、三郎の相手にはならないらしい。 『……ったく、だからって何で俺なんだ……』 『だって、志渡さんとは背丈も同じくらいだし』 『てめえ……いい度胸してんな!』 三郎は兄弟の中でも長身で、既にまだ志渡と名乗っていた金輪と同じくらいの身長があった。 ただ違うのは体格だ、やはり成人男子ともなれば肩幅も広くガッシリとした体つきだった。 三郎にとって、志渡は憧れで尊敬する先輩だった。 面倒見の良い志渡の性格は指導に向いているらしい、三郎の他にも志渡から指導を受けたいと申し出る者は少なくなかった。
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