慟哭

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『そうじゃねえって、何度も言ってるだろうが、このクソガキが!?』 『いちいち、うるせえな!!人が斬れればなんでもいいだろ!?』 それから毎日のように大木と志渡の怒鳴り合う声が道場に響き渡っている。 『三郎兄さん、あの二人またやってるの?』 『いつもの事だ、放っておけ千萬雄』 道場の片隅で三郎と千萬雄は呆れ顔で二人の様子を見ていた。 『志渡さん、教え方は荒いけど下手じゃないのに、匡は何が気にいらないんだろう?』 『大木は志渡さんを嫌ってはいないよ……ただ、素直じゃないんだ』 家でもそうだろう?と三郎は千萬雄に言った、確かに家での匡は主人である三郎の両親に対しては、指示された事を直ぐに行動し正解に仕事をこなす。 だが、三郎や特に同い年の千萬雄がお願いした仕事は、大概翌日、朝方にやってある事が多い。 それは他にしなければいけない仕事が山ほどあるから、仕方ない事かも知れないと三郎はわかっていた。 どこかで息抜きしなければ、幼い子供にはキツいだろうと思い、こうして道場に一緒連れて来る事にしたのだ。 志渡に対する大木の態度は、あらかた憂さ晴らしと言った所だろう。 それにしても、志渡に食って掛かるとは命知らずと言うか、度胸があると言うか…… 『そういう問題じゃねえよ!!何だその口の利き方は、お前は師匠を敬う気持ちはねえのか!?』 志渡と大木は十と六も年が離れている、下手をすれば親子くらいの年の差だ、身長は大木の方が高くても、力では志渡に敵う者はいない、後でボコボコにされるのはわかっているのに、毎日同じ事を繰り返している。
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