冤罪

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大木四郎が椿の元に戻って来た。 椿はそれを両手で抱え、愛しい人の唇に口づけた。 その姿が痛々しく、周りからは同情の声が聞こえて来る。 「何と酷い事を……」 「何もこんな若者達をいっぺんに殺さんでもいいのに……」 「……」 そんな声をあげる人々の中で、一人の少年が母の袖を引いて、椿のいる桜の気を指差した。 「……かあちゃん、桜が……」 見物に来ていた子供が、上を見上げ指を指しながら、母親の袖を引いた。 椿がいる桜の木だけが、いつの間にか満開に咲いて、花びらがヒラリヒラリと二人に降り注いでいる。 「そんな……まだ、桜が咲くには早いのに……」 今は三月、現代では三月の終わり…… 江戸や松本方面では桜が威風堂々と咲き誇っている頃なのだが、この諏訪地方では桜が咲くのはそれよりも十日程遅い。 「あの娘は本当に神の使いに違いない」 「こんな酷い仕打ちをして……皆、祟られるぞ」 そんな声が何処からか聞こえて来る、その言葉に怖じ気づいた首切り役が、処刑を続ける事に躊躇していた。 「何をしておる!?早く奴らの首を跳ねろ!」 総督府の検視役がいくら命令しても首切り役は動こうとしない。 そんな中…… 「願ふ事 一つもならて 死にもせは 悪神となりて 祟らん」
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