慟哭

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「ねえ、椿姉ちゃんは?椿姉ちゃんは無事なの?」 「ああ、椿さんは無事だ、ただ……今はもう、ここにはいない」 浅井の話しでは、椿は既に小諸藩の誰かに連れて行かれたと言う。 それを影で聞いていた金輪と佐之介は落胆した、下諏訪にいるならば、直ぐにでも奪い返したい気分だ。 「金輪さん……椿姉ちゃんは下諏訪にはいないのか?」 「そうらしいな……」 小諸藩に単身乗り込むとなると、それなりに準備が必要だった、直ぐに迎えに行ってやりたいが、今は無謀な賭けをする訳にはいかない。 浅井と克弘が見えなくなるまで見送ると、二人は再び京都に戻る事にした。 浅井と克弘は越後に移り、浅井は温泉業を生業として後世を過ごした、克弘は名前を変え、佐之介と再開するのは、明治も十年を過ぎた頃になる。 「これが……相楽さんの遺髪です」 「何と……」 金輪は落合直亮(水原二郎)と合流した、相楽の遺髪の前に涙する落合、落合の隣りには権田直助(苅田積穂)と科野東一郎もいる。 科野は、赤報隊幹部だった丸山梅夫の姉を嫁に貰い、その嫁の説得により、京都から相楽の元へ戻る事はなかった。 後に丸山は、落合と共に相楽の名誉回復の為に奔走し、魁塚の建立に力を注いだ。 「相楽さん……あれほど言ったのに、貴方と言う方は……」 落合と権田は何度も相楽に京都に帰って謹慎するよう促していた、だが相楽は落合達の言う事 事も聞かず、碓氷峠の占領を目指した。 相楽達が処刑される少し前、下諏訪で板垣退助が官軍を再編成し、甲州に向かっている事から、相楽の目指した方向性は間違ってはいなかったと確信する。 歴史にifはないが、もし相楽が下諏訪で処刑されていなかったら、友であった板垣と合流し、共に甲州勝沼で甲陽鎮撫隊と一戦を繰り広げていたかも知れない。
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