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相楽が小さな声でボソリと呟くと、それまでざわついていた民衆の声がピタリと止んだ。
何一つ想う事が叶わず死ぬのなら、悪神となって祟ってやろう。
それは相楽らしかぬ怨念めいた言葉だった。
「相楽さん……」
それを隣りで聞いていた金田は目を見開き驚いた。
相楽は西郷を御一新と信じて汚れ役を引き受けた、相楽を悪と罵れば、その家族がどんな仕打ちを受けるかわかっていながら、それでも最後まで西郷の言葉を信じて、ここまで来たのだ。
それなのに……
新政府に……薩摩に裏切られ、汚名まで着せられて罪人として処分される。
自分だけなら、それでもいい……
だけど、未来ある有能な若者達までも道連れに処刑する総督府が許せなかった。
相楽は驚いた瞳で自分を見る金田に、自傷じみた笑みを浮かべ言った。
「冗談だ……金田君、私達はここで眠り下諏訪の民を見守る神となろう」
金田は心の中で、それが相楽の本心なのだと覚る。
「……はい」
相楽の心情を考えるとそれ以上の言葉は出なかった。
次に呼ばれたのは小松三郎だった。
小松はよっこらせっと、重たそうに腰を上げる。
小松も散々痛めつけられて、体はボロボロだった、それでも自力で立ち、死地へと向かう。
その途中、小松は立ち止まり、後ろを振り向くと相楽に一礼をした。
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