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「椿!!」
「椿姉ちゃん!!」
尊の後ろから椿が目を見開いて驚いているのがわかる。
「金輪さん?佐之介君?……どうして?」
「お前を迎えに来たんだ、俺達と一緒に来い」
迎えに来た?
一緒に来いって?
いまいち状況が掴めない椿の肩に、尊はソッと手を置いた。
椿は後ろにいる尊の方を向くと、尊は寂しそうな笑みを浮かべていた。
「これでもう、肩身の狭い思いをしなくて済む、君は自由だ」
「自由……」
金輪に着いて行けば、本当の自由を手に入れられる、風当たりの強いこの場所で我慢をして暮らして行かなくていい。
だけど、今まで世話になって来た尊には恩がある、椿はまだ尊に恩を返していない。
どうしたら良いのか、自分の判断では決められない。
「椿?どうした?」
「あっ……」
「上條君、私の事を思ってくれているなら気にしなくて良い」
尊はこんな日が来る事を想定していた。
「君が居なくなるのは寂しいが、私は君の幸せを願っている」
「尊様……ありがとうございます」
椿は旅の支度を済ませると、金輪達と共に屋敷の門を潜った。
「金輪さん……これから何処に行くんですか?」
「秋田に戻る……俺達の故郷だ」
秋田……
それは金輪だけではない、大木や竹貫の故郷でもある。
「歩きになるが大丈夫か?」
「はい……大丈夫です」
こうして、三十日掛けて秋田へ戻る旅が始まった。
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