帰郷

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「いいか?良く聞け、今から俺と椿は夫婦、佐之介は椿の弟だ」 「はあっ!?何、狂った事言ってんだ?俺が椿姉ちゃんの弟だってのはいいけど、金輪さんが椿姉ちゃんの嫁なんておかしいだろ?」 「何言ってんだ、これくらいの年の差の夫婦なんて幾らでもいるだろうが!?」 慶応四年四月、金輪は数えで三十六歳、椿は十八歳になった、その年の差は十八歳、現代だったら年の差婚と騒がれそうだが、この時代では珍しい事ではなかった。 「俺達が全員兄弟って言う方が不自然だろ」 「私達、全く似てないですもんね」 兄弟にしては似てなさすぎている、確かにそれだと怪しまれそうだ。 「夫婦で商いをする為に京都に出て来たが、これから故郷に帰るって言った方が自然なんだよ」 老いた両親が心配で店を畳み、故郷に帰る、関所ではそう説明するのがいいだろうと言う事になった。 「椿姉ちゃんが男の格好するのじゃ駄目なのか?」 江戸にいた時、赤報隊として進軍していた時は、動きやすいと言う理由から椿は男装していた。 佐之介と出会った時もそうだった。 「それでもいいけどよ、椿の場合、男だって説明するには無理がある」 椿は女らしい体つきをしている為、晒しで胸を潰しても、一目見ただけで女だとバレてしまう。 「お前は椿が裸にされて調べられてもいいのかよ?」 「それは……嫌だ」 「だろ?だったら今の格好のままでいい」 椿が現代で着ていた制服等の荷物は、樋橋に置いて来てしまった為、今どうなっているのかわからない、だが江戸で買った櫛と簪だけは、どうにか手元に残っている。 今となっては、大木と渋谷の形見となってしまった。
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