冤罪

6/13
前へ
/93ページ
次へ
竹貫の次は渋谷総司。 渋谷は名を呼ばれても、その場から動く事が出来なかった。 「どうした?渋谷、今さら怖じ気付いたか?」 その場に立ったまま動かない渋谷を、西村が茶々を入れる。 「西村さん……そうじゃない……けど」 「わかってる、椿の事だろう?」 渋谷は椿の方を振り返り頷いた、もう三人が処刑された。 その惨さに民衆は目を反らしている者、手を合わせ念仏を唱えている者、泣きじゃくり母にしがみついている者。 「もう充分だ……」 「彼らが我々に何をしたと言うんだ……」 そんな声すら聞こえてくる。 それもそうだ、罪状は読む事もせず、ただ相楽達に見せただけ、もしその内容を民衆が知ったら、明らかに冤罪だと言う事がわかってしまう。 今さらこの処刑を取り消す訳にはいかない。 「ごめんね……椿君」 渋谷は相楽の手紙で呼び出され、下諏訪の脇本陣の辺りで捕縛された。 捕まった同志は片鬢片眉を剃落し追放となる事が決定している、渋谷もその中に入る筈だった。 晒し刑にあっても生きてさえいれば、後の世を椿と生きる道もあったかも知れない。 だけど、渋谷が選んだのは相楽達と共に死ぬ事だった。 「一緒に生きてあげられなくてごめん、先に逝く事を許してくれ……」 渋谷の声は椿には届かない、それでも伝えたかった。 渋谷は椿に向かい微笑んで、そして処刑場に向かった。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加