冤罪

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「さて……逝くか」 そう言って立ち上がったのは西村謹吾。 西村は竹貫と一歳違いの二十五歳。 浪士隊の時には出流山の挙兵に参加し敗戦の末、三田の薩摩藩邸に逃げ帰っている。 この時一緒いた同志は捕縛され処刑、自分だけおめおめと生き残り、生き恥を晒すより同志の後を追い腹を切る覚悟をしていた時、生きる意味を諭してくれたのが椿だった。 もう少しだけ…… 相楽さんの為に生きて欲しい…… そんな事を言われたら生きるしかないじゃないか。 最期まで共に生きようと決めた約束を違える事は出来なかった。 だから、こうして共に果てる事を、これっぽっちも後悔などしていない。 ここにいる皆は同じ気持ちだ。 悪人だと謗りを受けようが、自分達がしてきた事は全て国を想うが故。 それを誇りにして逝こう。 「相楽さん……自分を責めるなよ、あんたがしてきた事は何一つ間違っちゃいない」 「西村君……」 「あんたといた数年間は、俺が生きた二十五年よりも尊い、俺はそれを誇りに思う、あんたには感謝しているよ」 「ありがとう……」 西村は相楽が、自分達の死で自分を責め、人を恨み、悪神に変わらぬよう願った。 相楽は西村の言葉にどれ程救われたかわからない。
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