空を斬るときのキスは、草の味がするのだろう

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 ○ 『獣人(じゅうじん)解放。なぜ彼らは囚われていたのか』 『向き合うべき過去の歴史。問われる獣人との共存』 『獣人は人である』 「ビッグニュースになっているなあ」  酒場の、カウンターの一角で、僕たち獣人を解き放った女は新聞を見てボヤク。 「意外と受け入れられているみたいで、僕は逆に驚いています」  暗黒地帯から解放されて、三日が経った。  本では見たことあった、純血種の人間がたくさん歩いていた。石でも投げられるのではないかとビクビクしていたけれど、リリーは問題ないと僕の手を引いて堂々と街中を歩いたし、実際、僕たち獣人のことを気に留めている人など誰一人としていなかった。 「……他の国では、君のような獣人も一般的な人権が認められている。それに加えて、この国の民は賢い。そうした異国の文化も知っているし、一時の動揺はあれど、危害がないと分かれば受け入れるだけの度量も土壌も出来上がっている。良い国だ。それだけに、どうしてあのような空間に獣人が封じられていたのか、疑問符が残る」 「今、言ったこと。全部、出まかせでしょう。えっと」 「リリーとでも呼んでくれたまえ」 「リリーさん。貴方が何かしたんでしょう」 「ふふん。君は賢いなあ、ひつじ君。どうしてそう思う」 「こんな物騒な大剣を背負っている貴方を、誰も(とが)めない」 「見聞を広めたまえよ、ひつじ君。この世界にはもっとおどろおどろしいドラゴンだって飛んでいるんだよ」 「僕は、あの暗かった世界しか知らないものですから」  生まれた頃から、世界はそういうものだと思っていた。  空は暗く、光など差し込まず、幾千幾種の獣人たちが助け合い、生きていく。 「酒だって飲んだことありませんよ、僕は」 「それじゃあ、何か飲むかい」 「遠慮しておきます。胃が荒れそうだ」 「何事も経験なんだがなあ」  リリーは、手元の酒を飲み干してから、大剣の切っ先を僕に向けてきた。
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