空を斬るときのキスは、草の味がするのだろう

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「どういうつもりです?」 「斬られて分かることもあるさ」  と、リリーは躊躇(ためら)いなく、僕の体を大剣で貫いた。  カハッと息が漏れる。刺された? しかし、痛みはない。いったい、どうなっているのだろう。胸に突き刺さる大剣に、ゆっくりと触れる。刃先は全く鋭くなく、どちらも(みね)のような構造になっている。  大剣は引き抜かれ、あっさりと鞘に収められる。 「では改めて。酒、飲むかね」 「え。ああ、はい。じゃあ、何かオススメを……」  僕は、ハッとして自分の口を押さえる。  ふふ、とリリーは楽しそうに笑っていた。 「酒を拒む、君の気持ちを斬った」 「……なるほど。そういうことですか。そうやって、大剣が危険であるという認識や、この国の獣人に対する差別意識を斬ったんですね」 「いいねえ。君は聡いな」 「でも、どうして僕たちをあそこから解放してくれたんです」 「罪滅ぼしみたいなものさ」  リリーは、空になったグラスを指でなでる。 「君たち獣人を生み出したのも、元を辿れば私が原因だからな」 「それはまた、どうやって」 「端的に言えば、生命の理を斬ったのよ。人と獣がまぐわって、子どもが出来るようにした」 「……どうして、そんなことを」 「飼っていた猫が死んでね。寂しかったんだ」 「子どもの我がままですね、まるで」 「差し支えないな。だが、私にも斬れないものはある」 「何ですか」 「私が一度、斬ったものだよ」  酒が運ばれてくる。  金色の液体に、白い泡がゆらゆらと揺れている。ビールというらしかった。 「ちょっと待ってな」  そう言うと店主は、床下から土の入ったプランターを取り出した。店主が何か呪文を唱えると、プランターの土を埋め尽くすように三つ葉が生えてきた。 「最近覚えた魔法なんだよ」  店主は得意げに言って、ビールの泡の上に何枚かちぎった三つ葉を添えた。 「これはサービスだよ」と店主は言う。 「ひつじ君は、どの草がお好みなのかね」  リリーの顔は、いつの間にか赤く染まっていた。 「四つ葉のクローバーがのっている、ステーキです」  見かけによらず肉食じゃないか、とリリーは愉快そうに笑った。  
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