空を斬るときのキスは、草の味がするのだろう

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 ○  暗黒地帯から解放されて、一週間が経った。  一週間かけて、生まれて初めて、自分の国をぐるりと巡った。穏やかで良い国だと、リリーは言ったし、僕もその通りだと思った。  他の国に行く、とリリーは言った。  どこにも行く当てのなかった僕は、リリーと共にすることにした。  獣人という種族を創り上げ、獣人に対する差別的思想に苦しめられたのも、元を辿ればリリーのせいらしいが、それでも、僕を暗闇の世界から救い出してくれたのは、他でもないリリーなのだ。 「今時、恩返しなんて流行(はや)らないよ、ひつじ君」 「そんな高尚なものじゃありません。興味です。貴方が何を斬るのか、何を斬らないのか。だって貴方、やろうと思えば世界を支配出来るじゃないですか。でも、そうしようとしない。知りたいんです、貴方のこと」 「斬ってやろうか、その興味」 「構いません」  リリーはため息をついて、まあいいやと歩き始める。  リリーは気まぐれな猫のように、様々な国を渡り歩いた。  そしてリリーは、様々な概念や物を斬っていった。  僕の住んでいた国のように、獣人を差別する国の意識、国家ぐるみでの不正や、治安の悪さ。人々を襲おうとするオーガやドラゴンなどのモンスターを斬ることもあった。  リリーの斬っていくもの。それを一言で集約すれば「悪」だった。
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