空を斬るときのキスは、草の味がするのだろう

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 ○ 「知っているかね、ひつじ君」  街中を歩きながら、リリーは言う。 「人は昔、魔法を使うことは出来なかった。スライムやドラゴンなんてモンスターもいなかった」 「古代文明時代の話ですか」 「なんだ、知っているのか」 「暗黒地帯でも、社会は形成されていました。ひらたく言えば、あそこは純血種である人との交流がなかっただけで、獣人だけの国が築き上げられていたんです」 「……私は、余計なことをしたかな」 「僕は良かったと思ってます」  世界がカラフルになったから。  僕がそう言うと、リリーは曖昧に微笑んだ。 「私は、古代文明時代を生きていた。その時代はある意味では、君たちの住んでいた暗黒地帯に似通っていたよ」 「真っ暗だったんですか」 「いいや。青空は、いつも私たちの頭上にあった。ああ、空だけは、変わらないな」  リリーは大剣を振るった。  そして、リリーは街中で仰向けになった。僕もリリーの隣で仰向けになった。僕たちを咎める人は誰もいない。僕たちの存在はまるで透明になったみたいに、誰にも認識されていないみたいだった。
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