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プロローグ
「無人、しっかりと結界創造の術をマスターして帰って来い」
そう言った父の顔には疲れが滲んでいる。
倭王神社の結界の力が弱まったのは半年前の事だ。それまでの20年の間何の異変も無かったが、急に付近に奇妙な生き物が出現するようになった。倭王神社は卑弥呼を祀る神社であり、本殿の奥には樹齢2千年の大樹に囲まれた卑弥呼の墓がある。この卑弥呼の墓を護るために強力な結界を偉大な祖父である守造が創生した。その祖父の結界を維持するための守護術を父の守安は日課としているのだ。
今のところこの結界を見つけられてはいないが、これ以上結界が弱まることがあれば不浄の輩に卑弥呼の墓を見つけられてしまう恐れがある。『命に代えても卑弥呼の墓を護れ』と言うのが祖父の言い残した言葉である。父は今まで1日1回行っていた結界守護の呪術を3回に増やしてどうにかこの結界の強さをを保っている状態だった。
守護術は集中力のいる地道な作業であり、心身の消耗が激しい。長い年月の精神的な疲弊は想像するに余りある。まして肉体的にも疲労がたまる。しかも今まで補助を行っていた無人がいなくなれば負担は一気に増すのだ。
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