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あのね
「今日は会えないってメールしたはずなんだけど」
雅人はみたらし団子を頬張りながら、時計をじっとりと見上げている。
「知ってるわよ。あんたこそ実家に帰るって言っときながらなんで部屋で団子食べてんのよ」
私に鞄を投げつけられたせいで彼の頬には小さな傷が赤く滲んでいた。いつもなら、目をうるませながら弁明と謝罪を真摯に続けるはずの彼が、私よりも時計を見つめている。私が部屋に入って来た時も、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに苦虫を噛み締めたような悩ましい表情を浮かべた。焦りでも後ろめたさでもない、苦悩という言葉が似合うその表情に違和感を覚えながらも私は手にしていた鞄を無意識の内に放り投げていた。部屋の中もくまなく探し回ったが、裸体の女性も煌びやかなピンヒールも長い髪の毛の痕跡も、何一つ見つからなかった。何よりも不可解だったのは、喚き立て半狂乱になりながら部屋中を引っ掻き回している私の姿になど目もくれず、彼が片手で頭を抱えながらテーブルに肘をつき熱心にどこかを見つめたままだったことだ。
「なにを隠してるのよ」
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