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「見てください、やっぱりあの子は私の息子です!」
そう言って、少女は私にデジタルカメラを差し出してきた。
小雪のちらつく公園で、手袋もしていない彼女の手は凍りつくように冷たい。
カメラを受けとる拍子に触れてしまった私は、思わず顔をしかめた。
彼女はどれ程の時間、こうしていたのだろう。
受け取ったカメラを操作すると、向かいのマンション周辺の写真ばかりだ。いや、マンションで暮らしているであろう一人の男の姿。
彼女はどこをどう見ても十代の少女だ。その彼女が、これもまたどこをどう見ても五十代の男を自分の息子だと主張する。
「そうですか。でもそろそろ病院に戻りましょう」
私は彼女を刺激しないように穏やかに声をかけた。
彼女が病院を脱け出すのはこれで5回目だ。行き先は分かっているので、探すのは簡単だが、万が一にも彼女を彼女の言う"息子"に会わせるわけにはいかない。
それが介護士としての私の一番重要な仕事だ。
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