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「さて、と。とりあえず挨拶だけ済ませようかな。僕は犬。猫の相棒をしてる。そちらは葬儀屋さん。僕らが昔からお世話になってるひとだ」
やわらかな表情で、犬が少女に視線を合わせる。
「簡単に説明をしておくね。得意先の警察から、僕らに、殺し屋であるきみを始末するよう依頼が来た。僕らはいつも通り受けた」
そこで犬は、コーヒーを一口飲んだ。
「ややこしい話で悪いんだけどね。それより一ヶ月くらい前から、僕らのところに腕の良くない殺し屋が続けて来ててね。危険はあまり感じなかったし、最初は気にしてはいなかった。でも、あまりにも回数が続くし、どうやら殺し屋たちはどこからかの依頼として僕らを殺しに来てるらしい。さすがにおかしいから調べてみると、葬儀屋さんが委託してる火葬組織が怪しいって行き着いた。この前後で、きみはこの街に来たんじゃないかな。猫がバス停できみを見たらしいよ」
え、と、少女はかすかに瞠目して猫を見た。猫は知らん顔でひょいと肩をすくめる。
「見たよ、犬に頼まれたお使いの途中で」
「僕が調べてたきみの潜伏場所とは全然違ったから、正直驚いた」
まったく気づけていなかったことに複雑な感情を抱きながら、少女は犬と猫を直視できず視線を下げる。色の良い紅茶に、眼鏡のレンズを通さない瞳が映って揺れた。
「ま、そういうわけで、どうしてきみが突然僕らの縄張りに来たのかと思ってね。もしかしたら、仕事が入ったのかもしれないと考えた。例の火葬組織に雇われたのかもしれないってね。そうすると、狙われるのは例に倣って僕たちだ。僕たちは毎回この葬儀屋さんに、遺体の処理をお願いしてる。葬儀屋さんは火葬組織に火葬を委託してる。僕らにけしかけた賞金首は、遺体になって火葬組織に帰ってくるんだ。火葬組織は悠々と賞金にありつける。このサイクルにきみも巻き込まれたんじゃないか、ってさ」
呆れるほどシンプルかつ大胆なサイクルだ。犬はコーヒーを含み、香ばしい苦みを噛み締める。
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