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漆黒の車が走り始める。
「……お世話になります」
助手席に座った少女が、慇懃に葬儀屋に頭を下げた。運転席でハンドルを握り、葬儀屋もまた慇懃に返す。
「こちらこそ」
それで会話が終わってしまい、車内が沈黙に包まれる。少女はぽつりと、呟いた。
「変わった二人組なんですね」
「あのふたりは異色です」
短い言葉に、ほんのかすか。滲んだ親しさに、少女は気づく。
「ですが、関わりを保つに値する野良たちですよ」
再びの沈黙。
「名前を考えなければいけませんね」
「え?」
何のことか分からず、少女は葬儀屋に聞き返した。
「『蜻蛉』と呼ぶのは都合が悪いので」
「あ……そうですね」
今思い出したように、少女はうなずく。
「ゆっくり考えてください。楽しみにしています」
「……。はい」
少女を乗せた車は、進んでいく。
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「さぁーて、ばたばたしたけど、今回も無事にお仕事終わり、と」
大きくのびをする猫に、犬が少しだけ忠告めいた言葉を送る。
「そうだね。でも、あんまり今回みたいなことはしないでくれよ。結果オーライではあったけど、あの子みたいに人道的な殺し屋ばかりとは限らないんだから。……ま、猫のお眼鏡に叶う子だったって話なんだろうけどね。とにかく、無事に済んで良かったよ。お疲れさま、猫」
「そーいう話。犬もお疲れー」
ふたりが交わしたハイタッチの音が小気味良く夜の闇を揺らす。事務所に戻ろうとした猫が、ふと足を止めた。
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