第十五話「それぞれの思い」

43/44
前へ
/44ページ
次へ
 一番聞きたかった愛の告白に、花衣は大粒の涙を流した。  そして悔やんだ。  もっと早く、自分が素直になっていれば。  もっと早く、互いの弱さをこうしてさらけ出していたならば。  今日という日は、全く違うものになっただろうか……。 「ごめんなさい……。本当にごめんなさい……。馬鹿な私を許して……。あなたの気持ちに気づかずに、勝手なことをした私を、どうか……」 「君は悪くない。いつまでも君を不安にさせていた、俺が悪い。……怖かったんだ。俺はまともに愛し合う夫婦を知らない。だからいざ君と夫婦になると決めてからも、どうするのが一番夫として正しい道なのか、それが分からなかった。俺がいつまでも本音を言わずにいたから、君も……」 「違う違う」  互いの背に腕を回したまま、花衣は大きくかぶりを振った。 「あなたは全然悪くないの。私が悪いの。私がもっと素直にあなたに甘えて、恥ずかしい本音でもきちんと伝えていたら、あなたはちゃんと受け止めてくれていたはずなのに……」 「いや、やっぱり俺が……」 「違う、私が……」  延々と続きそうな応酬に、しかし二人はふっと黙り込み、無言で見つめ合った。  視線を重ねた直後、気がつくと唇を重ねていた。     
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

438人が本棚に入れています
本棚に追加