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(ここに勤めている者達すら、父のスパイなんだわ……)
自分が今も、完全に籠の中の鳥なんだと自覚し、華枝はがっくりとうなだれた。
「華枝、一体何が起きた。この方達は一体何者だ」
およその事情を察しながらも、高蝶泰聖はあくまで白を切るつもりらしかった。
そんな彼の本性を知らない景一は、礼儀正しく高蝶家当主の前に立ち、「初めまして。里水景一と申します」と挨拶した。
「里水香代さんの夫の、里水秋介の兄です。そしてあちらの女性が、香代さんの妹の桜井香奈さんです」
「…………」
泰聖は軽く片眉を上げ、「では、あそこの髪の長いお嬢さんは、どなたかな」と言った。
景一は驚きながらも、「彼女は里水花衣です。ご存知でしょう。高蝶家が香代さんに養子に出した、華枝さんの娘です」と説明した。
「ほう……」
しかし泰聖の表情は変わらず、彼はいつもの威圧的な声で言った。
「それでその里水家の皆さんが、一体この家に何用でいらしたのですかな」
「えっ……」
「娘が何を話したか存じませんが、我が高蝶家と里水香代さんは、何の関わりもないはずだが。その香代さんも数年前に亡くなった。ご遺族のあなた方は、一体どういった用件でここに?」
「な、何を仰ってるんですかっ……」
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