第十五話「それぞれの思い」

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 泰聖の信じられない態度に呆然とする景一に代わり、香奈が怒りの表情で前に進み出た。 「花衣がこの家の娘だってことを、私達はつい最近、いえ、私と花衣はついさっき知ったんです! それで事実を確認するために、今日ここへ来たんです! 私や景一さんはともかく、花衣には真実を知る権利があるはずです!」 「なるほど、権利ね……」  泰聖は長い指でゆるりと顎を撫で、鷹揚な足取りで応接セットに近づくと一番奥の長椅子に腰を下ろした。 「ならばもう、その権利は行使されたわけですな。では次にどんな権利を主張されるのかな。高蝶の子としてうちの相続権を、もしくは慰謝料を? 一体どれだけの権利を与えれば、あなた方はここから出て行って下さるのかな」 「馬鹿にしないでっ!」  怒りを滲ませた表情で、香奈は一人で泰聖の前に仁王立ちした。 「誰もそんなもの求めていないわっ! 花衣は立派に成長したし、私達はお金なんて欲しくない! だけどあなた方は、花衣に謝罪するべきでしょう! それが人としての道理ってものでしょう!」 「謝罪? なぜですかな。里水家に養子に出され、花衣さんは不幸だったのかな。あなた方から虐待でも受けていましたか? もしくは満足な教育も受けられず、労働力を不当に搾取されていたとか?」     
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