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「あっ、姉も義兄も、花衣をとても可愛がっていました! 私だって景一お義兄さんだって、姪として花衣を大事にしてきました! 虐待なんて、そんなことするわけないでしょうっ!」
「では結構なことではないですか。いいですか。我々は里水香代さんにどうしてもと乞われ、娘を養子に出したんです。その証拠に、彼女は一切の金品も受け取っておらんでしょう。つまりこちらは、あなた方に感謝されこそすれ、謝罪するような立場にはないと言うことです」
「別に私達に謝罪しろなんて言っていませんっ。だけど何も知らず養子に出された花衣には、何らかの形で詫びをっ……」
「結局、金でしょう」
泰聖は溜息と同時に吐き捨てた。
彼は涙で化粧の剥げた娘の顔をチラと見て、「嘆かわしい」と言わんばかりに大きく首を振った。
「まったく、だから儂はやめておけと言ったんだ。顔見知りに預けたりするから、後になってこんな面倒が起こる。これはお前の失態だぞ、華枝」
「お父様……あんまりだわ……」
華枝が涙ぐみ、景一と香奈は泰聖の信じ難い発言に呆然とした。
人としての心を大事に生きて来た人間にとっては、泰聖の言葉も態度もあまりに常識を逸していた。
まるで別の星の人間を見るような思いで、景一と香奈は泰聖の不遜を滲ませた顔を見つめた。
「もう、いいよ……」
停滞した空気を破ったのは、花衣だった。
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