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「それがわかんないのよっ。花衣も社長も電話に出てくれないしっ。私今、茨城まで撮影で来てるから、すぐに戻れないしっ!」
「……私も今仕事中だけど、都内だから、とりあえず仕事が終わったら花衣の家に行ってみるよ」
「ほんと!? ありがとう紫苑、愛してる!」
「ハイハイ。ていうかあんたも仕事中なら、今は撮影に集中しなよ?」
「分かってるわよっ!」
そう怒鳴って電話を切った亜利紗だったが、その実、本当にこの後の撮影に集中出来るかは甚だ疑問だった。
*****
亜利紗との電話を終えた花衣は、そのすぐ後に高蝶家に電話を入れた。
華枝は在宅で、花衣から「大事な話がある」と聞いて、全てを察したのか「どうぞ来て下さい」と自宅に招いてくれた。
景一と香奈、三人で亜利紗の家を訪問した花衣は、玄関で名乗るとすぐに、華枝の私室に通された。
当然、花衣も初めて入る部屋だった。
二階バルコニーに面した華枝の部屋はリビングと寝室が独立した作りで、家具はどれも、ヴェルサイユ宮殿に置かれていそうなロココ調だった。
広々とした応接セットに腰掛けて、メイドが運んで来た薫り高い紅茶を前にしても、花衣達の硬い表情は変わらなかった。
そして彼らの斜め隣、一人掛け用ソファに座る華枝の表情も、緊張で強張っていた。
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