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自分が彼の実子でないと知らされ、遺産相続人から外されたことを告げられた時も、花衣はあんな顔をしていなかったか。
全てを諦めたような、どこかに感情を置き忘れてきたかのような……あの仮面のような顔を。
*****
香奈の悪い予感は当たった。
自室で一砥と二人になり、部屋の中央で向き合った途端、花衣は言った。
「私、あなたと結婚は出来ません」
どこかで予感していたその言葉を、一砥は無言で受け止めた。
「亜利紗とはこれからも仲良く出来ると思うけれど、でもあなたとは……夫婦として家族として、共に家庭を築く自信がないんです」
「理由は?」
酷い宣告を受けたにも関わらず、冷静に表情を崩さない一砥に違和感を覚えながら、花衣は「それは……」とためらいがちに答えた。
「あなたのことを、信じられないからです」
「俺が君に、高蝶家とのことを黙っていたからか」
「そうです」
「なら逆に問おう。君が俺の立場なら、君に真実を話したか?」
「え……」
「事実を伝えることは簡単だ。だが実際に連中と会ったなら、君もあの家の人間がどういう人種か、もう理解しただろう。俺は旧家の風習などクソ食らえだと思っている。同様に、他人が勝手に作った真実ってやつもだ。そんなもののために、君が傷つき悲しむ姿など、見たくはなかった」
「一砥さん……」
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