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「これは俺のエゴだ。悲しむ君が見たくないのも、あんな連中のせいで君が金持ち全般嫌って、俺との結婚を考え直すかもしれないって危惧も、全て俺の一方的都合に過ぎん。それが許せないと言うのなら、仕方ない、別れよう」
「…………」
突如告げられた「別れよう」の一言に、花衣は自分でも驚くほど動揺した。
そのショックの大きさは、昨日受けた衝撃の比ではなかった。
自分が持ち出した別れ話なのに、いざ、本当に彼を失うかもしれないと感じた途端に、頭より先に心が、体が反応した。
「あぁ……」
小さな震えが指先から全身に伝わり、勝手に涙が滲んで頬を伝った。
彼を、失う。
その未来は何より恐ろしく、花衣はその恐怖に耐え切れず膝を折った。
「花衣……」
床に座り込んで無言で涙を流す彼女を、一砥は同情に満ちた目で見つめた。
「事実を隠していたことは、謝る。今後一切、君に隠し事はしないと誓う。今度また俺が何か秘密を持ったり嘘をついたら、この舌をペンチで引き抜いたっていい。こうなって俺も気づいた。君に全てを話すべきだったと。たとえ君がどれほど傷つき心折れたとしても、俺がずっと側にいてその傷が癒える手伝いをすればいい。俺が詫びるべきは、その労力を惜しんだことだ。その点で、俺は狡い男だった。……俺の話してる言葉の意味が分かるか」
花衣は視線を宙に据えたまま、無言で頷いた。
彼女の肩にそっと手を置き、一砥は淡々と話を続けた。
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